黒魔術部の彼等 キーン編6


悪魔の血を飲めば、蜘蛛の力を自在に使えるようになる。
そう聞いて、キーンはそれっぽいものを作ってくれていた。
部活ではずっと奥の部屋にこもっていて、たまに爆発音がして驚く。
そうして、一週間経った頃、呼び出しがあった。
休日、期待と不安を覚えつつキーンの家に行く。

「早速来てくださったんですね、ありがとうございます」
玄関扉を開けると、すぐにキーンが飛んでくる。
「お礼を言うのは僕の方だよ。苦労して作ってくれて・・・」
「用意しますので、私の部屋で待っていてくださいな」
成果物を試せるとあってか、キーンは意気揚々としている。
やや恐ろしさを覚えつつも、キーンの部屋へ向かった。


ベッドに座って待機していると、ほどなくして、キーンがいかにも怪しいものを持って入ってきた。
メスシリンダーの半分くらいまで、赤黒いグロテスクな液体で満たされていて
隣に来ると、濃い鉄の匂いがして眉をひそめた。

「墨汁に血を入れたような・・・」
「そんな単純なものじゃありませんよ。
悪魔の血を再現するのに何十という物質を組み合わせましたから」
その数を聞くと、人体に無害ではないのだろうと察する。
それでも、接角キーンが作ってくれたものを跳ね除けたくなくて、とりあえず受け取る。
自分の口元へ持っていったとたん、きつい匂いが鼻につく。
これは飲んでいいものではないと、体が拒否しているように、それ以上傾けられなかった。

一旦、口から離して深呼吸する。
味わう間もなく、一息で飲んでしまえばいい。
けれど、もう口に近づけることも躊躇われていた。

「やはり、厳しいですか」
キーンが、メスシリンダーを取る。
そして、自分で半分ほど飲んでしまった。
平然と口に含んだ様子を見て、目を丸くする。
そうして呆けていると、キーンの手が腰に回り、強く引き寄せられ
液体を飲んだその口が、唇に覆いかぶさっていた。

「っ・・・!」
あまりに手早い行動に、目が見開いたままになる。
瞬時に口の隙間か割られ、舌が入り込む。
それは柔いだけでなく、どろりとした液体を伴っていて、口内に匂いが充満した。

「う、う・・・」
呻いても、キーンはさらに強く唇を押し付けてくる。
さっきのグロテスクな液体が入ってきているとわかっても、吐き出すことなんてできない。
流れ込んでくる液体をいつまでも口内に留めていられなくて、喉を鳴らして飲み込んでいた。

嚥下した途端、喉が焼け付くほど熱くなる。
離れたくても、キーンは少しも身を引かない。
それどころか舌を執拗に絡め、液体をまとわりつかせてくる。
口の中で交わる液を飲み干すしかなくて、再び喉を鳴らしていた。


やがて、重々しい味も匂いも薄まってくる。
キーンはやっと交わりを解き、口を離した。
「悪魔に才を認められたあなたのこと、すぐに馴染むと思いますよ」
「うう・・・」
喉を通り過ぎた液体が、自分の体を巡るのがわかる。
指先を通り、腹部を駆け周り、下半身へも伝わっていく。
足の指先まで循環すると、ある一点へ集中し始めた。
行ってほしくない個所が、どんどん熱くなる。

「キーン・・・一旦、離れてくれる・・・」
「ですが、まだ半分残っていますし、全部取り込まなければいけませんよ」
キーンはが距離を詰めてきたとき、嫌でも当たってしまった。
熱を帯びて仕方がないものは、早々にどうにもごまかせない状態になっている。

「おやおや、こんなに即効性があるとは、さすが順応が早いですね」
キーンが楽しそうに笑っているが、こっちとしては恥ずかしくてたまらない。
「だから、離れてって・・・」
「ふふっ、一度、抜いてしまったほうがよさそうですねえ」
キーンは、手早くズボンの留め具を外してしまう。
こういうことをするつもりで来たのではなかったけれど
もう、止めても聞いてもらえないだろう。
あっという間に下半身の衣服は取り払われ、熱を帯びたものが解放された。
そこへ、キーンの手が添えられる。

「あ、っ・・・」
少し触れられただけなのに、声が上がる。
ひときわ敏感になっているようで、すでに脈打っていた。
「こんなにも感じやすくなるのですね、ふふ・・・」
キーンは怪しく笑み、掌全体で猛りを愛撫する。
「あ、や、あ・・・」
激しい動きではないのに、高揚感を抑えきれない。
根本や先端を指が伝うと、熱はさらに高まるようだ。

「もう先走っていますね・・・ここまで興奮作用があるとは」
「言わなくていいから・・・!」
先端から、白濁が漏れだしている感覚がわかる。
少し撫でられただけでこんな状態になってしまうのは明らかに異常だ。
まるで、早く、もっと触れてほしいと体が欲しているようだった。
指の腹が粘液質な液を拭い、その身に塗りたくっていく。
動きは流暢になり、卑猥な感覚がまとわりついて体が震えてしまう。

「キーン、もう、だめ・・・っ、ああ・・・!」
何往復かした後、衝動が走った。
全身に力が入り、溜まっていた欲が溢れ出し、キーンの掌を濡らす。
びくびくと脈動したものは、それでおさまるはずだった。

「良い表情ですね・・・」
達した後は、頭がぼんやりして焦点が定まらなくなる。
キーンが再び唇を重ねてきて、静かに目を閉じる。
柔らかな心地よさを感じているさなか、また、下肢に熱を覚えた。
まずい、と思いキーンの肩を押す。

「あの・・・やっぱり、もう、離れて・・・」
「おや・・・手で触れたくらいでは解消されないようですね」
キーンはくすりと笑み、再び下肢へ手を伸ばす。
また愛撫が始まるのかと思いきや、指先は奥まった方へ触れていた。

「な、なに」
「もっと強い刺激でなければ効果が薄いようですから」
白濁がまとわりついた指先が、窪まりへ触れる。
止める間もなく、ぬるりと中へ押し進められていた。

「あ・・・っ・・・!」
入り込まれたことのない場所を刺激され、あられもない声が出てしまう。
キーンは躊躇わずに指を進めてゆき、潤滑剤もあってすぐに根元まで入ってしまった。

「あ・・・あ・・・体、変になる・・・」
「欲求に逆らわずともいいのですよ。あなたが満足するまで、何度でもしますから・・・」
恐ろしくも聞こえることを言い、キーンはまた指をあてがう。
濡れている指は簡単に入ってしまい、さらに刺激が増やされた。

「や、あぁ・・・っ」
自分の中で二本の指が動き、抜いたばかりのものは欲を取り戻す。
体は収縮して止めようとするけれど、解されるばかりでだんだんと弛緩していく。
自分の意志で縮こまることができなくなり、されるがままになっていた。
「痛みもなく受け入れてくださっているようですね。
欲を誘発するだけでなく、抵抗力をなくす力もある。・・・これなら、あなたも苦しまずに済みそうです」
物騒なことが聞こえ、身が緊張する。

「なに、する気・・・」
「ここまで来てしまっては、私も納まりがつかない。
あまり、下は見ないでくださいね・・・」
キーンの指が抜かれ、息を吐く。
言われた通り、下に目をやらないようにしてぼんやりと天井を見上げる。
そうしていると、濃い鉄の臭いが周りに漂った。

何をしているのか気になって体を起こそうとするが、肩を押されて制された。
そして、指が入っていた窪まりにキーンの身が当てられる。
ぬるりとした感触がし、背筋がむずむずとした。

「ソウマさん・・・あなたの身を暴きたい。
乱れた姿を見ていると、欲を掻き立てられて仕方がないのです」
キーンの目が悪魔を呼び出すときのように爛々とし、見下ろされる。
欲を覚えてたまらない様子に、心臓は強く跳ねた。
それは愛しい相手への感情からか、それとも恐怖心か。
判別する間もなく、ぬるりとした感触と共にキーンのものが挿し入れられた。

「あぁ・・・っ!」
指とはまるで違うものに、声が上ずる。
潤滑剤になっているのは、きっとあの血溜まりだ。
キーンが徐々に進んでくると、びくびくと収縮する。
そうして赤赤とした液体を吸収してしまうと、脳の芯まで痺れるような感覚にとらわれていた。

じりじりとした痛みがあるけれど、それ以上に他に感じるものが強い。
自身の身に塗りたくったことでキーンも抑制がなくなっているようで、少しずつ圧迫感が増していく。
「ぅう・・・あ、あ・・・」
キーンのものが自分の中にあると思うだけで、息を荒げずにはいられない。
少しでも動かれると、強い刺激物に驚いたように窪みが収縮し、キーンを締め付けた。

「ああ・・・もっと圧迫してくださってもいいのですよ。私の精を搾り取るように」
締め付けられて高揚感が増すのか、キーンは口端を上げる。
快楽を求めて奥へ奥へと進み、とうとう下腹部が触れ合うまでになった。
完全に繋がりあった瞬間、ばっと蜘蛛の足が出現する。
それは、自分では抑えようのない欲求を示している証拠だった。

「あ、あぁ・・・キーン・・・」
おぼろげに名前を呼ぶと、蜘蛛の足がキーンの背を捕らえる。
欲深さは最高潮に達し、しきりに求め訴えていた。
「ソウマさん、私を欲しがってくださるのですね。もっともっと感じてください」
キーンがわずかに身を引き、奥へと突き動かす。

「ひ、あ・・・!」
液体と共に中が擦れて、びくりと体が震える。
奥を突かれる衝撃は思いの外強く、下肢の猛りも震えていた。
反応を見ると、キーンはさらに腰を引いて、再び押し進める。

「あ、ぅ、あ・・・っ」
往復運動の刺激に、体の熱は一気に循環していく。
心音をうるさくさせ、全身に力が込められ、原因のものを止めようと何度も収縮する。
けれど、それはキーンを興奮させる要因にしかならない。
キーンの背からも、黒い霧が集まって翼竜の翼が生える。
それは体を包み込み、周囲を暗くした。
この闇に、肉体も精神も完全に捕らわれてしまうような感覚になる。
蜘蛛の足はよりきつく回され、しきりに求めていた。

「一緒に達しましょう、ソウマさん・・・あなたの欲望を感じさせてください」
キーンが腰を深く落とし、最奥を強く突く。
一度だけではあきたらず、何度も、何度も。
「ああ、っ、キーン、だ、め・・・っ、ああ・・・!」
深いところまで犯され突き上げられ、 繰り返される衝撃は脳まで届き、他の感覚を麻痺させた。
さっき達したばかりなのに、激しい行為に体はとっくに反応しきっていて
下肢の猛りからは再び白濁が溢れ出し、窪みはキーンを強く締め付けていた。

「っ、ああ・・・ソウマ、さん・・・」
呻く様な声を発し、キーンのものが脈動する。
下腹部から、一定のリズムで振動が伝わる。
そして、すぐに、赤黒い液とはまた違う、粘液質な液が注ぎ込まれていた。

おぼろげな意識の中で、キーンの精が交わったことを感じる。
未だに、キーンのものは奥に留まったままでいて
行為の余韻で収縮する体は、意図せずともその液を取り込んでいた。
達した後でも、蜘蛛の足はしっかりと回されてキーンを離さない。
心は完全に漆黒の彼にとらわれたのだと、そう実感していた。




目を覚ますと、いつの間にか服を着ていて、整えられたベッドに寝かされていた。
鉄の臭いもせず、液体の感触もない。
だが、体を起こすと腰に鈍い痛みが走り、後ろの窪みには広げられた感覚が残っているようだった。
立ち上がると、ずきりと下腹部が痛む。
そんな余韻は、まるで昨日の出来事を思い出させるようだ。
とりあえずキーンを探そうと、扉に手をかける。
その瞬間、自動で開いて反射的に後ろへ飛びのいた。

「ソウマさん!」
「あ・・・キーン、おはよう」
慌てた様子で、キーンが駆け寄る。
「体は大丈夫ですか?吐き気がするとか、眩暈に見舞われるとかありませんか?」
「そういうのはないけど・・・少し、痛いかな。その・・・下半身の方が」
小声で言うと、キーンは心配そうに眉根を下げた。

「ああ、すみません。己の欲望に負けてあんなにも激しくしてしまうなんて。
体の不調が生じたらすぐに言ってください。念のため薬を塗っておきましょうか?」
「い、いや、大丈夫、そんな大げさな痛みじゃないから」
そんなところに触れられたら、きっと蜘蛛が出てしまう。
慌てて断ると、キーンはふっと息をついた。

「・・・あなたに飲ませるだけで終わるはずだったのですが、口づけてから抑制が利かなくなっていました。
もっと親しくなれば、きっと私は恐ろしいものを欲するようになる」
「恐ろしいもの・・・?」
急に、口調が重々しくなる。
「異常な欲望は、あなたの首を欲しがるようになってもおかしくない。
・・・そうなる前に、これ以上密になることは避けるべきなのかもしれません」
首が欲しくなると言われても、不思議と恐怖心はわかない。
この相手から物騒な発言が出ることは普通で、今更怯むことはなかった。


「そうです、あなたの首を刎ねてしまう前に、遠ざかった方が・・・」
「そんなこと言わないでくれ・・・!」
自分で勝手に答えを出そうとしていて、つい声を荒げる。
そのとき、強まった感情が蜘蛛を呼び出していた。
足の先端から、細い糸が勢いよく発射される。
それはキーンの身体に巻きつき、自分の方へ引き寄せていた。
逃さないように、両手でしっかりと抱き留める。

「・・・僕にとっては、首を刎ねられるより、キーンが離れて行く方が嫌だ。
首だけになっても、近くに置いてくれるんならそれでいい」
キーンは、本気だろうかと疑うように、目を丸くして凝視している。
おかしなことを言っていると、自覚する。
昨日の行為で、脳髄まで侵されたのだろうか。
どうせ殺されるのならキーンの鎌で刈ってほしいと、そう思うようになっていた。

「そんな・・・そんなことを言って、知りませんよ。
私はあなたのこととなると、自分を抑えられる気がしない」
「そう言ってもらえて、嬉しい。・・・僕も、どうにかなっちゃったみたいだ」
相手をとらえて離さないこの糸が、自分の本心の証拠だ。
もはや、普通には戻れないけれど
後悔なんて、微塵もなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
いろんな意味でいってしまった二人。キーン編では少々無茶をさせられて満足←。